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大阪高等裁判所 平成2年(行コ)59号 判決 1991年5月17日

大阪市阿倍野区天王寺北一丁目八番四七号二四四

控訴人

谷口敏子

大阪市阿倍野区三明町二丁目一〇番二九号

被控訴人

阿倍野税務署長 団武夫

右指定代理人

井越登茂子

福原章

安田信二

刀禰正晴

主文

一  本件訴訟を棄却する。

二  訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対し、平成元年六月一三日付けでした昭和六三年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二当事者の主張

次に訂正、付加する他は、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の訂正

1  原判決三枚目裏九行目の次に改行して「なお、同表の収入金額及び源泉徴収税額は、本件改正法附則四〇条二項により、昭和六三年三一日以前分のそれである。」を加える。

2  同三枚目裏七行目の「額」の次に「、並びに加算税の基礎となる税額」を加え、同裏一一行目の次に改行して、次のとおり加える。

「(3) 加算税の基礎となる税額 八万円

(4) 加算税の割合(国税通則法六五条一項による) 一〇%」

3  同四枚目表初行の「昭和五三」を「昭和六三」に改める。

二  控訴人の主張

1  所得税法所定の人的控除の制度は、憲法二五条一項を根抵にもつ納税者の権利であり、いかなる種類の所得にも適用されるべきであるから、新措置法三条一項による利子所得への一律源泉分離課税制度は、これを排斥した点において、そもそも憲法二五条一項に違反し無効というべきであって、右分離課税制度の適用によつて、納税者の「健康で文化的な最低限度の生活」が保障されなくなった場合に、初めて右規定の適用が違憲となるというものではない。

2  昭和六三年度税制度改正による所得控除の引上げと税率の累進構造の緩和の恩恵を最も受けたのは高額所得者であり、さらに利子所得の分離課税の税率も低減されて、高額所得者は二重の恩恵を受けたのに比べ、少額の利子所得生活者は、新措置法第三条一項の適用によって、利子所得を、基礎控除、老年者控除その他の人的控除等の適用から除外されるというのは、不公正、不公平で著しく合理性を欠くものである。

したがって、新措置法三条一項は、憲法一四条に違反し無効である。

三  控訴人の主張に対する認否

控訴人の主張1・2項は争う。

第三証拠

原審における訴訟記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は、理由がないと判断するものであるが、その理由は、次に、付加する外は、原判決理由に記載のとおりである(但し、原判決七枚目裏四行目の「そして、」の次に「成立に争いのない乙第一号証及び」を加える。)から、これを引用する。

右認定の事実によれば、控訴人の昭和六三年度の総所得金額五一万八三二六円から所得控除の合計額九九万一一八九円を差し引いた課税総所得は零円となり、控訴人の同年分の還付金の額に相当する税額は右源泉徴収税額に相当する一〇万三六六二円となるから、本件更正処分は適法である。

また、右更正処分によつて、控訴人の当初の申告税額は結果的に過少であったことになり、したがって、その増差税額に応じた過少申告加算税額は八〇〇〇円となることが認められるから、本件の過少申告加算税の賦課決定も適法である。

二  控訴人は、当審でも、種々の理由をあげ、新措置法三条一項は、利子所得について一律源泉分離課税の制度を採用し、所得控除の適用を排除した点において、憲法二五条一項、一四条に違反すると主張する。

所得税法所定の各種所得控除のうち、基礎控除などの一般的な人的控除の制度は、納税者本人及びその家族の最低限度の生活を維持するに必要な部分については課税しないとの配慮に基づくもので、憲法二五条に示された国民の生存権保障の理念に裏打ちされたものであり、また、老年者控除などの特別な人的控除や社会保険料控除など特殊な控除は、担税力の低下や特別の支出などの納税者の特殊な事情を考慮して、課税の公平を図り、ひいては納税者の生活保障に配慮した制度であると解すべきである。

しかし、右のように、所得控除の制度が、それを通じて納税者の「健康で文化的な最低限度の生活」の実現に資するものであるからといって、いかなる種類の所得についてもこれを適用しなければならないものではなく、また、利子所得につき一律源泉分離課税を採用し、所得控除の適用を排除したことが、直ちに納税者の最低限度の生活を侵害したとか、納税者間に不公平、不平等をもたらすものということもできない。

また、所得控除の制度は、納税者の人的事情に基づく担税力の差異に着目して、課税の公平を図ることをも主眼としているものであって、いかなる種類の所得にどの程度の所得控除を認めるかは、その内容が納税者間に不公平、不平等をもたらし、著しく合理性に欠けるものでない限り、立法裁量に委ねられているものと解される。

そして、新措置法三条一項による利子所得への一律源泉分離課税の採用が、納税者間不公平、不平等をもたらし、著しく合理性に欠けるものであることにつき、主張立証のない本件では、右規定が憲法二五条一項、一四条に違反して無効であるということはできない。

三  してみると、訴訟人の本訴請求はいずれも理由がなく、棄却すべきであるから、これと同旨の原判決は相当であって、本件訴訟は理由がない。

よって、本件訴訟を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 後藤勇 裁判官 高橋史朗 裁判官 小原卓雄)

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